熱く輝く水面を見上げている

無機質な夜に

ワクワクする何かを忘れてしまわないように。困難なことが降りかかる日々に。眠れない夜に、飽きてしまわないように。小さなきっかけさえあれば人は前に進める。

考えていることは壮大なのに、言葉にするとひどくつまらなくなってしまう。宇宙は途方もないエネルギーに満ちているけれど。退屈な明日が憂鬱で仕方ない。広大な時間、そんなものは存在しない。思い出だけが、傷跡だけが過去を証明する。それを忘れてしまったら生きた証は残らないのだろうか。

A LONG VACATION

未来=時間なんだろうか。変化こそが生で、無こそが死ならば。もう一度あの頃の気持ちのままで、あの海に行けたらなら。もう一度あなたに会える。太陽の熱、水の冷たさ。喉の渇き、肌の痛さ。

ミュージシャンの大瀧詠一さんのCDジャケットのような風景に入れる。手がけたのはグラフィックデザイナーの「A LONG VACATION」は永井博さんというらしい。画像検索で作品を見てみると、トロピカルな風景画が多い。どれも素晴らしい。風景画でどこか無機質な感じは、エドワード・ホッパーを思わせる。南国のホッパーといったところでしょうか。公式サイトのつくりも素敵。たぶん結構古いサイトなのに、今見ても良いデザイン。シンプルで洗練されている。

イラストレータ鈴木英人さんの手がけた山下達郎さんの「FOR YOU」のジャケットも素晴らしい。夏のさわやかさ、空気感。コカ・コーラやポカリスウェットの90年代のCMのような、世界で生き続けたい。フレッシュさと爽やかさだけの若者たちの群像劇。そんな青春を過ごしたかった。

駆け出さずにはいられない何かがあったころ。身体の中から燃え上がるようなエネルギーが溢れていた頃。ふつふつと熱が湧き上がるように聴いた深夜のメロコア。興奮と疲れにまみれて眠りに落ちていた頃。そんな日が減っていくことが怖い。ただただ怖い。老いることが怖いのではない、若さを失うことが怖いのでもない。無機質な夜に慣れてしまうこと、それを良しとしてしまうこと。その気持ちすら忘れてしまうことが怖い。システムに飲み込まれてしまうこと。それに慣れてしまうこと。2001年のドラマ「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」の中で、内山理名さんが演じる沢村遥が「大人になることが怖い」と言っていた。大人になってこの意味がわかった気がする。

浜辺から見た対岸の花火、遠くに感じる火薬の匂い。薄煙と夕闇。未来に想いを馳せる、遠くを見上げる。

血を滾らせる

負けてはいられない、悲観してはいられない。良くも悪くも明日は訪れる。わけのわからないデタラメな恐怖にとらわれないように。一人怯えている間も夜は巡る。負けないために、思い出をエネルギーに変えて。

あと何回夏を感じれるだろうか。

MM.11986